WHY
共創型事業開発とは何か
定義/背景/パーパス起点の原則

共創型事業開発とは、企業がそれまで自社内だけで行ってきた企画・開発・事業化のプロセスを、消費者・協力企業・大学/研究機関・自治体など多様なステークホルダーとの対話・協業に開き、既存商品の改善や新しい商品・サービス、さらには新しいビジネスモデルを生み出していく事業開発の様式を指す。

01なぜ「共創」が必要になったか

1

市場の成熟

一つの企業が自社内だけで消費者ニーズにマッチした商品・サービスを生み出し続けることが難しくなっている。異業種参入によって競争優位性が短期間で失われる事例も増加している。

出典:NTT OPEN HUB Journal
2

イノベーションのコスト構造の変化

単独開発ではコスト・時間がかかりすぎる領域を、他社のリソースとの補完によって実現する動きが加速している。

3

顧客接点のデジタル化

SNS等の普及により、消費者からのフィードバックを商品・サービス開発にダイレクトに取り込める土壌が整った。企業と消費者が対等な立場で対話する「双方向タイプ」の共創を後押ししている。

4

大企業単独の研究開発の限界

デジタル変革・データ駆動化・サステナビリティ対応など、従来の内製開発だけでは対応が難しい領域で、スタートアップ等との協働が急速に増加している。

02パーパス起点で進める、という原則

共創を効果的に進めるためには、関係者全員が共有する明確な目的、すなわちの設定が不可欠である。パーパスとは、ステークホルダーの共通の課題を言語化した共通目的のことを指す。

個別の連携手法(HOW)から入ってしまうと、協業は高い確率で頓挫する。大企業とスタートアップの協業が上手くいかない最大の要因は、協業後にどんな未来を目指すのかという共通ビジョン=パーパスを欠いたまま、やり方の話に飛びついてしまうことにあるとされる。

共創は単なる「外部連携」ではない。パーパスという共通目的を軸に、複数の主体が対等な立場で価値そのものを一緒に生み出すプロセスを指す点が、下請け発注や単純な業務委託と異なる。
02
共創の3類型と効果
提携/共有/双方向タイプ/得られる5つの効果/パーパスモデル

共創は、ステークホルダー同士の関係性によって大きく3つのタイプに分けられる。どのタイプを選ぶかは、自社に足りないものが「資源」なのか「議論の場」なのか「顧客との対話」なのかによって変わる。

01共創の3類型

提携タイプ

自社に不足している資源を他社との協力で確保するタイプ。人材・技術・研究開発費・アイデア・販売網などを補完し、対等なパートナーシップを構築する。

共有タイプ

企業がコンソーシアムやコミュニティを形成し、課題の解決に向けて議論を深めていくタイプ。複数組織が共通テーマで協働し、異なる視点から新たな価値を生み出す。

双方向タイプ

企業と消費者が、対等な立場でコミュニケーションを取り合うタイプ。SNS普及により、消費者フィードバックが商品・サービス開発に直接活かされる。

出典:NTT OPEN HUB Journal「共創とは?求められている背景と3つの種類、得られる効果」

02共創で得られる5つの効果

  • 新顧客・ファン獲得。市場変化に敏感に対応し、売上向上と長期的な顧客忠誠度の向上につながる。
  • リソース補完。コスト・時間の削減により、単独では実現できなかったアイデアが形になる。
  • シナジー効果。生産・販売効率の向上につながる。
  • 新規事業創出。自社にない視点からのビジネス創造が可能になる。
  • 人材育成の効率化。パートナーから有用なノウハウを習得できる。

03共創を可視化する「パーパスモデル」

01

FCAJ発のフレームワーク

イノベーションの実践を推進するアライアンス組織FCAJ(Future Center Alliance Japan)の研究プロジェクトから生まれたフレームワーク。パーパスと、各ステークホルダー(企業・行政・市民・大学/研究機関)の目的・役割を図化する。

出典:図解総研
プロジェクトの類型としては、事業をつくる/基準をつくる/共通認識をつくる/関係をつくる/場をつくる/共同体をつくる/人を育てる/公共を開くの8タイプに整理されている。単一の「正解」があるわけではなく、目的に応じてどの類型のプロジェクトを組むかを選ぶ発想が重要。
03
理論的基盤と進め方
Value Co-Creation理論/デザインシンキング5ステップ/リビングラボ

共創の実践には、理論的な支柱と現場で使う具体的な型の両方が必要になる。理論的支柱としてのValue Co-Creation理論、現場の型としてのデザインシンキングリビングラボの手法を押さえる。

01理論的基盤:Value Co-Creation(Prahalad & Ramaswamy)

C.K.プラハラードとヴェンカト・ラマスワミは2004年の論文で「価値は共創される(value is co-created)」と提唱した。企業と消費者の相互作用こそが価値創造と価値抽出の"場"になるという考え方で、価値創造の視点を「製品・企業中心」から「個人化された消費者経験」へと転換させた。

この理論の決定的な特徴は、ユーザーを単なる調査対象ではなく真の開発パートナーとして捉える点にある。他の多くのイノベーション手法と共創が一線を画すのは、この「共同での価値の創造」という視点にある。

出典:Prahalad, C. K., & Ramaswamy, V. (2004). "Co-Creation Experiences: The Next Practice in Value Creation." Journal of Interactive Marketing, 18, 5-14.

02デザインシンキング 5ステップ

1

共感(Empathize)

専門家に相談しながら観察・関与し、人々の体験や動機を理解して問題のありかを見つけ出す。

2

問題定義(Define)

共感フェーズで得た情報を共有・グルーピングし、フォーカスする着眼点(Point of View)を決めて解決したい問題を定義する。

3

発想(Ideate)

既存の枠組みから離れ、問題文に対する新しい見方・新しい解決策を探る。

4

プロトタイプ(Prototype)

試作品を素早く作成する。

5

テスト(Test)

ユーザーが使うシーンを想定して疑似体験し、不具合を確認する。素早く作り、素早く失敗することがポイント。

出典:スタンフォード大学 d.school

03リビングラボの5段階プロセス

対話Dialogue
ステークホルダー相互が対話でお互いの立場や価値観を理解し合う。
課題共有Discover
対話によって課題意識を共有し、地域の課題を発見・可視化する。
アイデア創出Ideate
地域課題を解決するためのアイデアを出し合う。
プロトタイプ創発Prototype
アイデアを実現するためのプロトタイプを創発する。
実証実験Validate
ユーザーにとって有効かどうか実証実験を行う。
リビングラボの明確な定義は確立されていないが、日本では研究者・木村篤信氏による「製品・サービス企画や政策・活動企画の主体(企業・行政・NPO等)と生活者(利用者)が共に、生活者の実生活に近い場で、仮説の探索や解決策の検討・検証を実験的に行うための仕組み」という定義が広く引用される。出典:NTTデータ経営研究所
04
日本の動向
実施率/国内の主要な共創拠点

日本の大企業における共創(オープンイノベーション)の実施率は47%。およそ半数の大企業が何らかの形で取り組んでいるが、欧米企業と比較すると実施率は低く、特にスタートアップとの共創が遅れているとされる。

01実施率と主要プラットフォームの実績

オープンイノベーション実施率
日本の大企業(n=101)
主要プラットフォームの実績規模
Sony Acceleration Platform/NTT OPEN HUB(単位が異なる点に留意)
47%日本の大企業のオープンイノベーション実施率(n=101)
およそ半数の大企業が何らかの形でオープンイノベーションに取り組んでいる。欧米企業と比較すると実施率は低く、特に起業家・スタートアップとの共創が進んでいないと指摘される。
出典:「オープンイノベーション白書 第二版」NEDO・JOIC(オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会)
817件 / 26業種Sony Acceleration Platformの支援実績(2025年2月時点)
2014年にSeed Acceleration Programとして活動を開始。これまでにwena wrist・AeroSense・toioなど17事業を創出した。
出典:Sony Acceleration Platform公式情報
約1,300社 / 3,000名NTT OPEN HUB for Plural Futuresの利用実績
2021年10月に開始。MEDIA・BASE・PARK・PLAYの4機能で構成され、2022年2月には大手町にワークプレイス「OPEN HUB Park」を開設した。
出典:NTT OPEN HUB公式サイト

02国内の主要な共創拠点

J01

日立「協創の森」/協創棟

中央研究所の敷地内に地上4階建ての新施設を開設。外部の研究者や顧客を招き、日立の研究者と議論したり互いの技術を持ち寄ってものづくりを試したりする場を提供する。

研究開発拠点
J02

Lumada Innovation Hub Tokyo

顧客・パートナー・日立が互いの知見や技術を共有し、新たな価値を創出し続けるハブ。東京・丸の内に開設された。

共創ハブ
J03

Sony Acceleration Platform

企業内新規事業開発支援に加え、2020年12月には共創専用の交流拠点「SSAP Open Innovation Village」を本社内に開設。2025年1月にはBoundary Spanning Serviceを開始し、約1,500の企業・団体が登録している。

事業共創
J04

日立×パナソニック コネクトの協業

2023年より、日立の生体情報認証技術(PBI)とパナソニック コネクトの顔認証技術を融合。2026年度中に実証・ユースケース検証を行い、2027年度以降の本格実装・サービス展開を目指す。

技術融合
05
事例集
企業間共創(国内)/消費者共創(海外)

代表事例を、企業同士が組む「企業間共創」と、企業が消費者を巻き込む「消費者共創」に分けて見る。

01企業間共創(国内)

三井物産 × プレイドジョイントベンチャー「ドットミー」JP
上場SaaSベンチャーのプレイドとジョイントベンチャー「ドットミー」を設立。博報堂からの資金調達や味の素との共同商品開発など、共創の輪を広げている。
セコム × アジラAI警備システムの共同開発JP
スタートアップのアジラと資本業務提携を締結。AI警備システムの開発を通じ、セキュリティ分野のAI化・社会実装を目指す。

02消費者共創(海外)

LEGO Ideasファン投稿型・投票式の商品化プラットフォームGlobal
ファンが自作デザインを投稿し、コミュニティが投票する仕組み。1万票を獲得すると公式チームが審査し商品化を検討する。採用されたデザイナーは全パッケージ・マーケティングに名前が掲載され、売上の1%を受け取る。NASAアポロ・サターンV型ロケットや、ドラマ「Friends」のセントラルパーク・カフェなどがヒット商品化された。
P&G Connect + Develop外部アイデア提携プログラムGlobal
2000年に開始した外部提携プログラム。外部パートナーが製品アイデアを提案できる仕組みを通じて、Swiffer WetJetやTide Podsなど数々のヒット商品を生んだ。同社CIOによれば、製品の35%が社外由来となり、R&D生産性は60%向上イノベーション成功率は2倍に、かつイノベーションコストは低下したという。
企業間共創は「不足するリソースの補完」、消費者共創は「顧客接点そのものを開発プロセスに組み込む」ことに主眼がある。TYPESタブの「提携タイプ」「双方向タイプ」にそれぞれ対応する。

03P&G Connect + Developの成果を数値で見る

社外由来の製品比率/R&D生産性向上率
同社CIOの発言をもとに作成
イノベーション成功率
2.0
Connect+Develop導入前との比較
06
リスクと課題
3つの落とし穴/大企業とスタートアップの温度差/よくある疑問

共創は万能薬ではない。とりわけ大企業とスタートアップの協業では「温度差」に代表される構造的な摩擦が繰り返し指摘されている。

01協業を頓挫させる3つの落とし穴

R1

将来ビジョンの欠如

協業後にどんな未来を目指すのかという共通のビジョン=パーパスがないまま、個別の連携手法(HOW)に飛びついてしまう。

最頻出
R2

スタートアップの目利き力不足

大企業側がスタートアップの事業段階や実力を適切に評価できず、PoCの段階から過剰な要件を求めてしまう。

評価力
R3

ワンチーム化の失敗

会社の垣根を越えて一つのチームとして機能できず、意思決定や情報共有が分断されたまま進んでしまう。

体制
出典:CPASS「スタートアップと大企業によるオープンイノベーション創出はなぜ上手くいかないのか?」

02大企業とスタートアップの「温度差」

スタートアップ側の傾向

スピード重視の姿勢で意思決定・実行を進める。この速さが、大企業からは「拙速」に映ることがある。事業規模やインフラの堅牢性を十分理解しないまま、大企業側の要求を安易に受け入れてしまうケースもある。

大企業側の傾向

意思決定前の社内調整・稟議が多く、スタートアップからは「遅い」と映ることがある。PoCの段階から過剰な要件を求め、検証のハードルを不必要に上げてしまうこともある。

双方が相手の意思決定プロセスの違いを前提として認識した上で、PoCの要件を最初から過大にしない・事業規模やインフラの実情を正しく理解する、といった歩み寄りが必要とされる。

03よくある疑問

出典:NTT OPEN HUB Journal「共創とは?求められている背景と3つの種類、得られる効果」/CPASS「スタートアップと大企業によるオープンイノベーション創出はなぜ上手くいかないのか?」/図解総研「パーパスモデル:人を巻き込む共創のつくりかた」/Prahalad, C. K., & Ramaswamy, V. (2004) Journal of Interactive Marketing/スタンフォード大学 d.school デザイン思考プロセス/NTTデータ経営研究所「リビングラボを通じた市民参加型の地域デジタルトランスフォーメーション」/「オープンイノベーション白書 第二版」NEDO・JOIC/Sony Acceleration Platform公式情報/NTT OPEN HUB公式サイト/日立製作所公式サイト(協創の森/Lumada Innovation Hub)/日立・パナソニック コネクト共同プレスリリース(2026年4月)/FasterCapital・各種調査記事(LEGO Ideas/P&G Connect+Develop)。各社公表値・報道時点のデータで、数値は今後変動しうる概算として扱うこと。